流氷押し寄せるオホーツク海に面した湧別町に、私事ながら、高校時代の同級生が暮らしている。最北端・宗谷岬を出発する直前に「あとで湧別に寄るよ」とLINEをその友人・橋本(実名)に送った。「うちに来いよ」との返信は1時間後だったが、焦ることはない。稚内から湧別までの距離は約250キロ。全て一般道。5時間はかかる。実際、相当な疲れとともに湧別町に入ったのは、宗谷岬を出発してから4時間45分後だった。


紋別市とサロマ湖に挟まれた海沿いに湧別町はある
紋別市とサロマ湖に挟まれた海沿いに湧別町はある

 湧別に着くと「戻るのにあと1時間かかるから、チューリップ見て来いよ」と返信が届いた。いかつい風貌の橋本の口から、チューリップ。ギャップに吹き出しつつ、かみゆうべつチューリップ公園へ向かった。毎年5月~6月中旬にかけて、約120万本のチューリップが咲き誇る。色とりどりを眺めながら「あぁ、あいつはこんなところで育ったんだな」と感慨深くなる。橋本との出会いは高校1年の教室。彼はこのオホーツクの中学を卒業し、神奈川の高校に進学してきた。


かみゆうべつチューリップ公園の様子
かみゆうべつチューリップ公園の様子

 大学付属の私立高校だった。入学式後の教室も、ほとんどが初対面同士でぎこちない。自己紹介が始まる。「北海道から来ました」と言い、教室をざわつかせたのが橋本だった。スポーツ推薦ではないようだ。それなのになぜ。「大学受験したくないから」と私と同じ志望動機でも、15歳にして北海道から単身上京してきた自立心に圧倒された。橋本は一躍注目を集め、校内一熱心な勧誘活動のアメフト部に誘われ「断り切れずに3年間たちました、みたいな」と振り返っていた。


毎年5~6月に120万本のチューリップが咲き誇る
毎年5~6月に120万本のチューリップが咲き誇る

 卒業直後の上京は「中学開校以来初と言われた」と笑う橋本のスピリッツは、湧別のチューリップの歴史とどこか重なる。昭和32年に、上湧別町(当時)の農家54戸がチューリップ耕作組合を結成。オランダから約6万球の球根を輸入し、栽培を開始。その数年後にはアメリカに数十万球を輸出するなど、産業をゼロから築く挑戦をしてきた。一時失速するものの、昭和50~60年代から観光政策の一環で公園を整備、オランダ風車も建設。観光ブームの今、チューリップの街として再び注目を浴びている。ただ、汗臭い男子校の教室でそんな話をした記憶は一切ない。


オランダ風車をバックに咲き誇る湧別のチューリップ
オランダ風車をバックに咲き誇る湧別のチューリップ

 美しいチューリップの後に、20年ぶりにいかつい顔と再会した。初めての渋谷スクランブル交差点が怖くて一度で渡りきれなかったという橋本も、家業を継ぐため湧別へ戻った。いまや一児の父。オホーツク海産物のWEB販売「なまらモグぱっく」を立ち上げ、家業を発展させた。入学式直後の教室で、橋本の背中をたたいて話し掛けた後ろの席の15歳は、当時からの才能を見事に開花させ、いまや多くの人々の心をうつアーティスト。みんなすごいなぁ、と北の大地で感慨にふける。友との再会もほどほどに、次の街へ向かう私。「今度来たときは泊まれよ」。オホーツクは遠い。チューリップの約束は、まだ果たせずにいる。【金子B】


「かみゆうべつチューリップ公園」へ行くには?

 東京羽田から1日複数便出ている女満別空港から、車で北へ約1時間半。電車の場合は札幌から特急で旭川へ、さらに特急に乗り換えて遠軽駅まで合計4~5時間。遠軽駅からは車で15分ほど。札幌から車で向かう場合は4時間ほど、旭川からは2時間ほどです。冬の路面凍結時はもう少しかかります。


Wonderful View No.43 "Kamiyubetsu Tulip Park"

Yubetsu-cho faces the Sea of Okhotsk, and drift ice flocks in the depth of winters. Though it is such a cold town, the tulips are in flower in spring. In Kamiyubetsu Tulip Park, you can enjoy more than 1,200,000 colorful tulips.

[DATA]

Address: 318, Kamiyubetsu-tonden, Yubetsu-cho, Hokkaido

Access: 4hours drive from central Sapporo

5hours by train from central Sapporo

Parking: 400 cars