アルゼンチンで頭に浮かぶのはマラドーナ、「エビータ」、そしてデフォルト(債務不履行)を繰り返す経済の混乱だ。

もともと肥沃(ひよく)な国土に恵まれ、20世紀の初めには国民所得で世界十指に入る裕福だった国がなぜ。「エビータ」でも描かれた政情不安、場当たり的な経済政策にその一因があることは間違いない。

「明日に向かって笑え!」(8月6日公開)は、そんな失政の澱(おり)が噴き出した2001年の金融危機を背景にしている。

さびれた田舎町でガソリンスタンドを営むフェルミンは、元サッカーのスター選手。町おこしを思い立ち、放置されていた農業施設を住民有志で再開しようと動きだす。顔見知りの住民はそろって「お人よし」。フェルミンの熱意になけなしの貯金を差し出す。

このお金が、当てにならない自国通貨のペソではなく、米ドルであるところがミソで、フェルミンはこの貴重なドル札の束を銀行の貸金庫に保管する。が、この額では農業施設の買収はままならない。旧知の支店長は「貸金庫の米ドルを口座に入れれば残りの額は融資する」と持ち掛ける。

フェルミンはやむなくこの話に乗るが、時を置かずに「金融危機」が報じられて口座は凍結。要は支店長とその背後にいる黒幕の弁護士マンシーによって貴重な米ドルをだまし取られたのだった。

情報に通じた支配層が無知な庶民をだます構図。現実社会では泣き寝入りということになるのだろうが、映画の本筋はここからだ。お人よしの庶民たちが奇想天外な方法で悪徳弁護士をやり込め、ドル札を奪還する痛快物語となっている。

プロデューサーのフェデリコ・ポステルナーク氏は「2001年はアルゼンチンの社会全体が詐欺に遭ったようなもの。人々は登場人物に共感し、彼らの立場になって考えることができたと思います」という。一昨年の同国観客動員1位になったのもうなずける。

フェルミン役のリカルド・ダリンを始め、キャストは同国を代表する名優、ベテランが名を連ねる。時に皮肉めいた、肩の力の抜けたやりとりがいい。失敗あり、屈折ありの「ポンコツ軍団」の復讐(ふくしゅう)物語が何とも楽しい。悪徳弁護士マンシー役のアンドレス・パラのワルっぷりが見事な分だけ、留飲も下がる。【相原斎】(ニッカンスポーツ・コム/芸能コラム「映画な生活」)